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【Part 1】配送の「便利さ」の裏にある環境負荷
今や私たちの生活は「ネットで買って翌日に届く」が当たり前になりました。スマートフォンから数回タップするだけで、欲しい商品が自宅に届く。こうした便利さは、まさに現代の暮らしを支える基盤です。
しかし、その“便利さ”の裏で見過ごされがちなのが、環境への負荷です。
日本国内の宅配便取扱数は年々増加し、2023年度には年間50億個を超えました。
配送トラックの走行距離も増加し続け、燃料使用量の増加に伴ってCO₂排出量も拡大しています。環境省によれば、運輸部門が日本全体の温室効果ガス排出量の約18％を占めており、その多くが貨物輸送に由来しています。
つまり、私たちの「便利な買い物」は、知らず知らずのうちに地球の温暖化を加速させているのです。
特に深刻なのが再配達による環境負荷です。国土交通省のデータによると、宅配便の再配達率は約10％。10件のうち1件が再びトラックを走らせている計算になります。これにより、年間で約42万トンものCO₂が余分に排出されていると推計されており、これは一般家庭およそ15万世帯分の排出量に相当します。
再配達は、単なる「手間」ではなく、環境問題でもあるのです。
さらに、過剰包装や小口配送も環境負荷の要因です。
「送料無料」や「即日配送」などの利便性が広がる一方で、少量注文や分割配送が増え、結果としてトラック1台あたりの積載効率が下がります。さらに、使い捨ての段ボールや緩衝材も増え、廃棄物問題を悪化させています。
こうした背景から、いま物流業界では**「エコ配送（環境配慮型配送）」**へのシフトが進んでいます。
電動トラックやハイブリッド車の導入、AIによるルート最適化、再生可能エネルギーを利用した倉庫運営など、環境負荷を減らしながら効率を上げる仕組みが拡大中です。これらは単なる環境対策ではなく、企業のコスト削減やブランド価値向上にもつながる“新しい経営戦略”として注目されています。
一方で、エコ配送の推進には消費者の理解と協力も不可欠です。
「少し遅くてもまとめて受け取る」「時間指定を活用する」「再配達を減らす」といった、日常の小さな工夫が環境への大きな貢献になります。
私たちの“便利な日常”は、多くのトラックとドライバー、そして膨大なエネルギーによって支えられています。
その仕組みを理解し、少しでも環境への負担を減らす選択をすること――それが、持続可能な社会への第一歩です。
【Part 2】進化するエコ配送の仕組みと技術
エコ配送は、もはや一部の企業だけが取り組む特別な活動ではなく、物流業界全体が直面する「次の標準」となりつつあります。その中心にあるのが、テクノロジーの進化によって支えられる環境対応型の仕組みです。
まず、注目すべきは車両の電動化です。これまでのトラック輸送ではディーゼル車が主流でしたが、現在では電気自動車（EV）や燃料電池車（FCV）への置き換えが急速に進んでいます。大手宅配企業は都市部の集配拠点でEVトラックを導入し、CO₂排出量の削減だけでなく、騒音や振動の軽減にもつなげています。都市環境への負担を減らすこの動きは、まさに「静かでクリーンな配送」という新しい価値をもたらしています。
次に重要なのが、配送ルート最適化技術です。AI（人工知能）やビッグデータを活用して、渋滞情報や天候、荷物の量、受取人の在宅状況などを考慮し、最も効率的なルートをリアルタイムで算出する仕組みです。
たとえば、AIが自動的に配達順を組み替えることで、走行距離を削減し、燃料消費を最小限に抑えることが可能になります。これにより、企業はコスト削減と環境負荷低減の両立を実現しつつ、ドライバーの負担も軽減できるようになりました。
また、エコ配送の裏では、再生可能エネルギーの活用も広がっています。物流拠点や倉庫では、太陽光発電による電力供給が増えており、再エネで充電したEVが配送に使われるという“完全グリーンループ”の構築も進行中です。これにより、単なる車両の電動化にとどまらず、物流全体のカーボンニュートラル化を目指す動きが加速しています。
さらに、包装資材の見直しも欠かせない要素です。
ダンボールや緩衝材などの使い捨て資材を減らし、再利用可能なリターナブルボックスや環境配慮型素材を採用する企業が増えています。これらの取り組みは、輸送段階のCO₂削減だけでなく、廃棄物削減にも直結します。とくにEC企業においては、商品と同じくらい「梱包のサステナビリティ」が消費者に評価される時代になっています。
エコ配送を支える仕組みのもうひとつの柱がデータ連携による可視化です。IoT技術を活用して、車両や倉庫の稼働データをリアルタイムで収集・分析し、どこでどれだけのエネルギーを消費しているのかを可視化します。これにより、エネルギー効率の悪い拠点を特定し、改善策を講じることが可能になります。物流の見える化は、単なる管理の効率化だけでなく、サステナブル経営への道筋を明確にする指針ともいえるでしょう。
さらに、配送の最終段階においても技術革新が進んでいます。
ラストワンマイル配送では、自動配送ロボットや小型EVの導入が進み、都市部では狭い道や住宅街にもスムーズに対応できるようになりました。これらの新技術は、交通渋滞の緩和や再配達の減少にも貢献し、結果的にCO₂削減に寄与しています。
このように、エコ配送の進化は単なる“技術導入”にとどまりません。
それは、**「環境配慮 × 効率化 × 経済性」**の三つをバランス良く両立させるビジネス戦略へと進化しています。
多くの企業が「環境負荷を減らすことは、経営リスクを減らすこと」と認識するようになり、エコ配送はコスト削減や企業価値の向上にもつながる“投資領域”として注目されています。
これからの物流業界は、単に物を運ぶだけではなく、**「地球環境と共存する仕組みをつくる産業」**としての役割を担うことになります。エコ配送の最前線には、技術革新だけでなく、社会全体の意識変革が求められているのです。
【Part 3】持続可能な物流を実現するために
「エコ配送」は、もはや一時的な流行ではなく、企業活動そのものを支える新たな“基盤”へと変わりつつあります。
私たちが毎日のように利用する宅配サービス。その裏でどのように環境への配慮が行われているかを理解することは、これからの社会を考えるうえで欠かせません。
まず、持続可能な物流を実現するためには、企業と消費者の双方が協力する意識の転換が必要です。
企業は環境負荷を減らす取り組みを進める一方で、消費者も「少し待つ」「まとめて受け取る」など、小さな行動の変化によってエコ配送を支えることができます。再配達を減らすために時間指定や宅配ボックスを活用するなど、日常の工夫が大きなエネルギー削減につながるのです。
次に、企業側の取り組みとして重要なのがサプライチェーン全体での連携です。
配送の一部だけで環境対策を行っても、全体の効果は限定的です。
原材料の調達から製品の出荷、倉庫保管、配送まで、すべての工程で「環境にやさしい仕組み」を整えることが求められます。たとえば、再生可能エネルギーを利用した倉庫運営、共同配送による積載効率の向上、リサイクル可能な梱包材の活用など、全体をつなぐエコシステムが不可欠です。
また、エコ配送の推進にはデータ活用の高度化も欠かせません。
AIによる需要予測や、IoTを活用した配送状況のリアルタイム監視は、無駄な走行を減らし、より効率的で環境にやさしい物流を実現します。
たとえば、天候や交通量をもとに配達計画を最適化したり、車両の稼働データをもとに運行スケジュールを調整したりすることで、エネルギーの浪費を防ぎつつ、配送精度を高めることができます。
さらに、行政や自治体のサポートも重要な役割を担っています。
多くの自治体では、地域企業との連携によって「低炭素物流モデル」を構築したり、電動トラック導入に対する補助金制度を設けたりと、持続可能な物流への支援を強化しています。
こうした動きは、企業単独では難しい大規模な環境施策を可能にし、地域全体のサステナブル化を後押しします。
一方で、エコ配送の拡大にはまだ課題も残されています。
たとえば、電動車両の充電インフラの整備や、環境対応資材のコスト問題などです。
特に中小規模の物流事業者にとっては、環境投資が経営負担になりやすいという現実もあります。
そのため、今後は大企業や自治体による支援スキームの充実、そして業界全体での技術共有が鍵になるでしょう。
持続可能な物流を実現するためには、「環境へのやさしさ」と「経済的な合理性」を両立させる視点が欠かせません。
短期的な利益だけを追うのではなく、長期的な信頼やブランド価値を育てることが、結果として企業の競争力を高めます。
消費者にとっても、エコな選択が“便利で当たり前”になる社会の仕組みづくりが求められています。
今、エコ配送は“選択肢”ではなく“責任”へと変わりつつあります。
私たち一人ひとりが環境負荷の現実を理解し、小さな行動から変えていくこと。
企業が技術革新と共に社会的使命を果たしていくこと。
この二つが重なり合ったとき、本当の意味での「持続可能な物流」が実現するのです。
エコ配送の進化は、地球の未来への投資そのもの。
それは便利さを犠牲にするものではなく、テクノロジーと意識の変化で新たな“心地よい便利さ”を生み出す挑戦なのです。
✅ 次回は『環境とサステナブル配送 Vol.2 再配達問題の現実 ― 受け取りやすさをデザインする』です。
